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会長挨拶

全国精神保健福祉センター長会会長 辻本哲士

 平成29年7月から全国精神保健福祉センター長会の会長をしております、滋賀県立精神保健福祉センター所長の辻本哲士です。障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)・精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)の一部が改正され、法律に基づいた施策が地域で実践・展開されていくなか、一言、挨拶を述べさせていただきます。

◇精神保健福祉センターとは
 精神保健福祉センターは精神保健福祉法第6条に規定され、精神保健の向上及び精神障害者の福祉の増進を図るために、各都道府県ならびに政令指定都市に設置されている機関です。その規模は、自治体によっていろいろですが、どの地域でも、精神保健福祉に関する総合的技術センターとしての役割を果たしています。

◇精神保健福祉センターの歴史
 精神保健福祉センターは、昭和40年の精神衛生法改正で地域精神保健の第一線機関に保健所が位置付けられた際に、保健所の精神保健業務をバックアップする専門機関として、都道府県に設置できるようになったもので、当時は「精神衛生センター」という名称でした。その後、精神衛生法が人権擁護の強化された「精神保健法」へ改正された時(昭和62年)には「精神保健センター」へ、さらに、「精神保健法」から精神障害者福祉の概念が盛り込まれた「精神保健福祉法」への改正時(平成7年)には、「精神保健福祉センター」へと改められました。精神保健福祉法の平成11年改正(平成14年度施行)では、精神保健福祉センターが都道府県・政令指定都市に必置とされるとともに、自治体での呼称や名称に自由性が認められました。このため、自治体によっては、「こころのセンター」「こころの健康増進センター」など、多様な名称となっています。
 令和6年4月現在では、47都道府県と20の政令指定都市に設置され、全国に69か所(東京都は3か所)あります。

◇精神保健福祉センターの役割
 令和4年の精神保健福祉法改正に伴って、「精神保健福祉センター運営要領」も改訂され、地域精神保健福祉における精神保健福祉センターの役割は、
・精神保健福祉法第6条の規定に基づき、都道府県等及び指定都市が設置する精神保健及び精神障害者の福祉に関する総合的技術センターとして、地域の精神保健福祉における活動推進の中核的な機能を備えなければならない
・住民の精神的健康の保持増進、精神障害の予防、適切な精神医療の推進、地域生活支援の促進、自立と社会経済活動への参加の促進のための援助等を行う
・障害者総合支援法により、都道府県及び市町村が実施する精神保健福祉に関する相談支援について、精神障害者のみならず精神保健に課題を抱える者も対象とされ、これらの者の心身の状態に応じた適切な支援の包括的な確保を旨として、行わなければならない
と、規定されました。
 さらに、精神障害者等をより身近な地域できめ細かく支援していくためには、市町村が相談支援等の取組をこれまで以上に積極的に担っていくことが求められます。精神保健福祉センターは、市町村及び市町村を支援する保健所と協働し、精神障害者等のニーズや地域の課題を把握した上で、障害保健福祉圏域等の単位で精神保健医療福祉に関する重層的な連携による支援体制の構築に向け、運営要領に示された各業務を総合的に推進する役割を担っています。

◇精神保健福祉センターの業務
 前述の役割を果たすべく、精神保健福祉センターは、以下に挙げる業務を実施しています。
(1)企画立案
(2)技術支援
(3)人材育成
(4)普及啓発
(5)調査研究
(6)精神保健福祉に関する相談支援
(7)当事者団体等の育成及び
(8)精神医療審査会の審査に関する事務
(9)精神障害保健福祉手帳の判定及び自立支援医療費(精神通院医療)の支給認定
(10)心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律に係る業務
(11)災害等における精神保健上の課題に関する相談支援
(12)診療や障害者福祉サービス等に関する機能
(13)その他、地域の実情に応じて必要な業務
 これらの他にも、新たな精神保健医療福祉上の課題への対応が求められる可能性は、常にあります。これらの業務は、都道府県や政令指定都市の本庁、保健所、市町村等、必要な関係機関と日頃から連携し、精神障害者やその家族等の意見も考慮しながら進めています。

◇全国精神保健福祉センター長会について
 メンタルヘルス対策は、シンプルに表現すると、医療(診断や薬物療法・精神療法・カウンセリングなどの治療)と保健福祉(人の関わりの中で健康を保ち、障害を補う)の両者が必要で、これらを連動させながら推進されています。行政機関が実施するメンタルヘルス対策を適切かつ効果的に推進するために、全国の精神保健福祉センターの所長が全国精神保健福祉センター長会を構成し、ネットワークを作って、日常的に連絡協議を重ねています。この会は、豊富な経験や様々な役割をもつ医師・専門職からなり、多様な意見が出せることが強みです。
 全国精神保健福祉センター長会の現在の活動は、概ね、以下の4本の柱になっています。
@精神保健福祉業務を適切かつ効果的に推進するための、情報交換による経験と知恵の共有
 災害時のこころのケア活動をどう進めていくか、自殺対策や依存症対策、長期在院患者の地域移行をどう展開していくか、ひきこもりや発達障害等の児童・青年期問題で保育や教育、労働などの関係機関連携をどう構築するか、身体科医療だけでは対処困難となりつつある高齢者の問題や高次脳機能障害の課題にどう対応するか、精神障害者保健福祉手帳判定の難しい事例をどう考えるか、医療観察法・触法精神障害者の支援をどう進めていくか等々を、互いの経験を交流させ、情報交換を行い、各地域での実務に反映させています。
A調査研究と相互研修
 専門的な視点から共同の調査研究を行ったり、全国精神保健福祉センター研究協議会やブロック毎に開催される研究協議会の研究発表で学び合ったりして、各自治体での事業企画等に還元しています。
Bわが国の精神保健福祉のあり方に関する意見交換・意見集約・意見具申
 精神保健福祉センターは行政の一機関ですので自ずと限界はありますが、地域において公衆衛生的視点をもって精神保健福祉を担っている唯一の専門機関です。このため精神保健福祉の施策等がよりよく推進されるように意見を求められることも多く、直近では精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会、精神保健福祉に関しての市町村・地域包括支援のあり方、アルコール健康障害や薬物やギャンブル等の依存症対策などに、会としての見解をお伝えしています。今回の精神保健福祉法改正の検討規定として「政府は、精神保健福祉法の規定による本人の同意がない場合の入院の制度の在り方等に関し、精神疾患の特性及び精神障害者の実情等を勘案するとともに、障害者の権利に関する条約の実施について精神障害者等の意見を聴きつつ、必要な措置を講ずることについて検討するものとする。」の付則があります。今後、精神保健福祉センター長会の立場としても検討が必要となります。
C連帯と協同
 全国精神保健福祉センター長会議や全国精神保健福祉センター研究協議会・ブロック毎の研究協議会、さらには会員のメーリングリストを通して緊密に交流・親睦を重ねております。

 以上、精神保健福祉センターならびに全国精神保健福祉センター長会の概要をご紹介してきました。どの地域の精神保健福祉センターも、マンパワー不足に悩まされながら、社会構造の複雑化、多様化の中で、様々な精神保健福祉分野からの要請の増加に対応しています。
 メンタルヘルスの不調は、医学的要因に限らず、社会的要因が大きく、生活困窮、就労、介護、教育、住居その他、様々のストレスが誘引となって精神的不調がおこり、誰にも相談できずに孤立して、状態が悪化しがちです。孤立から精神的不調を深めるというパターンは、自殺、依存症、ひきこもり、災害時の心的外傷など、精神障害全般に認められます。誰かと相談でき孤立せずにすむ体制作りには精神科医療だけでなく、様々な地域の関係機関が連携・協力して、継続して支援していくことが重要です。このように地域全体で精神的不調のある人を支えていく仕組みづくりについては、現在進められている「我が事・丸ごと」の地域づくり、共生社会の実現、包括・包摂・重層といったタームにも関連します。
 こうした地域の仕組みづくりを、広域に専門性をもってバックアップする行政機関として、精神保健福祉センターには重要な役割があると考えております。施策に直結する多様な精神保健福祉活動において、これまでもこのような役割を果たし、将来に向けて新たな役割をも担っていく精神保健福祉センターを、引き続き宜しくお願いします。